クラクション

遠くのクラクション。
前に座る親子の後ろに開かれた窓から入ってきた。
また静かになる。
次に彼らが呼ばれて、最後に私が呼ばれる。つい先にことだけはっきりしていた。
絵本を読んでいる子供と目をつむってうつ向いている母親。
こどもが振り返り外を眺めている。何かに向かって人差し指を伸ばしている。母親が子供が差し示す方を見つめる、自然に私も追う。電線に留まったつがいの小鳥がさえずっていた。
そういえば、私はその愛らしい声をここに座ってからずっと聴いていたようだ。
昔を思い出そうとする。影像と声像がうまく定着しない。私の過去が中途半端な記憶の浮遊物に汚れていく。
鏡像段階 ほら、これがお前だよ 鏡に映る自身のイメージを母親に指し示され、自我の映像としてはじめて定着する時期があるという。