生活記 モノローグあるいは間奏

しばらく海に行かなくなった。ある日、休日ではあるが外出の用があって、帰り海辺に寄り道した。
晩秋、冷たい強い風が体温を奪う。抗うように足早に歩き体を温める。空の雲が一掃された天に牡鹿の雄叫びが響く。それは幻聴だ。
しかし水平線の狭間が溶けて薄青紫色の茫洋とした海を前に、時折点滅する点々とした灯を見ていると私の座標が誰かに絶望的に指し示されている。
わしの歩いて行く道は、あなたさまにも判らんじゃ。童は言った。罰あたりな盗みを繰り返しながら、街街を山々を駆けた。やはり人の子。よく目覚めに泣いた。悪霊憑きの貧乏紙だと己を呪うとても苦い朝だった。そのような人の野生を見逃す掟はきっと存在しないらしく、彼は静かに、うなだれ、何度ももと來た道を探すのだが、なにも手掛りはないらしかった。